おとうちゃんが役所の人を追い返しちゃったのよ―。ラーメン屋のおかみさんが嘆いている。「おれはラーメン屋で食べてるんだから、まだ年金はいらねぇんだ」と白髪頭の親父。どうやら国民年金の受給に関する書類の提出を断ったらしい。「くれるって言うんなら、もらっておけよ」。客はあきれ顔である。
この話を聞いてちょっと驚くのは、「こんな日本人がまだいたのか」と思うぐらいに珍しい話になったからだろうか。「体が動くうちは働いて、人さまの面倒にはならない」。少し古臭いかもしれないが、“気持ちに健全性”が感じられる。
自主自立、自助努力、再チャレンジ−。日本人は、長期の経済低迷から脱出する過程で、組織や他人に寄りかからず、自分でリスクを取って主体的に生きる、昔気質の生き方への復帰を目指したはずだった。そうした時代背景の中で、確定拠出年金(日本版401k)が生まれた。自己責任で管理・運用する年金だ。
先の参院選で民主党が示した公的年金の改革案は、税方式で最低保障年金を作ろうというものだった。消費税の引き上げを想定していないため、新たに保険料を負担するという意識もないまま、誰でも年金をもらえる。他人任せで、参加意識も曖昧になる。「財源はどこにあるのかという心配より、そうした制度になったら、国民の気持ちがどう変わっていくか、気掛かりだ」という先輩記者の懸念は、もっともだと思う。